今回ご紹介する「閉塞性動脈硬化症(ASO=Atherosclerosis obliterans)」は、「血管のつまりが原因で足が痛くなる」病気の代表です。
別名、末梢動脈疾患(PAD=Peripheral Artery Disease)とも呼びます。
漢字ばっかりのお堅い名前の病気ですが、書いて字のごとく
動脈(血液を心臓から全身に送る血管)が、
動脈硬化によって
閉塞(へいそく;つまる)
ことによって起こる病気です。
あまり有名ではないですが、実は身近な病気の一つです。
日本の中高年の一般住民における有病率(ゆうびょうりつ;その病気にかかっている確率)は1~3%とされています。
症状があるかないかは別にして、中高年の100人に3人くらいはかかっている病気である閉塞性動脈硬化症。今回は、この「閉塞性動脈硬化症」について、くわしく解説します。
■目次
閉塞性動脈硬化症の原因
閉塞性動脈硬化症(ASO)の原因は、その名の通り動脈硬化です。
動脈硬化の原因にはいろいろなものがありますが、その中でも
- 高血圧
- 脂質異常症(コレステロールもしくは中性脂肪が高い)
- 糖尿病
- 喫煙
- 家族歴(血のつながった家族の中に、心筋梗塞や脳梗塞など、動脈硬化性の病気の方がいる)
の5つは非常に重要な要素です。
そのほかにASOになりやすい素質としては、男性や高齢者が挙げられます。
既往歴は大切なチェックポイント
また、高血圧・脂質異常症・糖尿病で治療を受けている方の中には、心筋梗塞や狭心症、脳梗塞など、動脈硬化が原因の病気にすでにかかってしまった方も多いと思います。
実は、そのような病気の既往歴(きおうれき;今までにかかったことがある病気)も大切なポイントの一つです。
ASO患者さんの30%に冠動脈疾患(心筋梗塞、狭心症)があり、
冠動脈疾患患者の20%にASOがある
というくらい、これらの病気はお互いに関係しているからです。
閉塞性動脈硬化症の症状
閉塞性動脈硬化症の症状は、足の痛みです。
しかも、「歩くと痛いが休むと治る」という、特徴的な症状が出ます。
この足の痛みは、
- 足が冷たい(下肢冷感)
- 歩くと痛いが休むと治る(間欠性跛行)
- 黙っていても痛い(安静時疼痛)
- 足に傷ができる(潰瘍(かいよう)・壊死(えし))
と、1→4まで段階的に進んでいくことが多いです。
重症下肢虚血は、ASOの最終形かつ最重症タイプ
「安静時疼痛」および「潰瘍・壊死」は、別名を重症下肢虚血(じゅうしょうかしきょけつ)(CLI=clitical limb ischemia)と呼びます。
糖尿病や人工透析の患者さんなどでは、初期の段階を飛ばしていきなり潰瘍・壊死で発症することもあり、注意が必要です。
重症下肢虚血は、適切な治療を行わないと命に係わることがあります。
心当たりのある方は、早い段階での専門医受診を強くおススメします。
閉塞性動脈硬化症と間違いやすい症状のある病気
間欠性跛行と同じような症状、つまり「歩くと痛い、休むと治る」といった足の症状を出す病気に、腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)や慢性コンパートメント症候群などがあります。
このうち、一番良く見かける腰部脊柱管狭窄症とASOの見分け方のコツをお教えします。
腰部脊柱管狭窄 | ASO | |
立っているだけで足が痛い (歩かなくても痛い) |
あり | なし |
自転車に乗ると足が痛い | なし | あり |
坂道で足が痛い | 下り坂 | 上り坂 |
前かがみで足の痛みが治まる | あり | なし |
足の脈拍 | 触れる | 触れない 触れるが弱い |
(閉塞性動脈硬化症の病態 中村正人 心臓 vol42 No3 (2010)より引用・改変)
一番わかりやすい症状は「前かがみで足の痛みが治まるかどうか」だと思います。
前かがみで足の痛みが治まる場合、まずは整形外科を受診していただき、腰部脊柱管狭窄症があるかどうかを診察してもらうと良いでしょう。
閉塞性動脈硬化症の診断
閉塞性動脈硬化症(ASO)の診断をするときには、まず一番に自覚症状をみます。
上記の症状に加えて下のような検査を行い、診断します。
- ABI(足関節・上腕血圧比、Ankle Brachial Index);両方の腕と足の血圧計を巻き、血圧を同時に測る検査です。
- 運動負荷試験;ベルトコンベアの上を決められた速度、傾斜、時間で歩いてもらい、症状やABIの変化を見る検査です。
- 下肢動脈エコー;超音波を当てて、血管の状態を確認する検査です。
- 下肢動脈CT・MRI;CTやMRIの装置を使って血管の状態を確認する検査です。
- 下肢動脈造影;カテーテル(細長い管)を手首や足の付け根の血管から挿入し、動脈の中に直接造影剤を入れて撮影を行う方法です。
それぞれの検査について、詳しくは「【動脈硬化】閉塞性動脈硬化症を疑うときに、病院で行う主な検査」をご参照ください。
一般的には、一つの検査だけを行って診断をつけるということは少なく、
症状に応じていくつかの検査を組み合わせて診断を行います。
閉塞性動脈硬化症の治療
閉塞性動脈硬化症(ASO)の主な治療法には、
- 運動療法
- 薬物療法
- 血行再建(途絶えてしまった血液の流れを回復させる治療);カテーテル治療、バイパス手術
などがあります。
▼それぞれの治療法について、「【動脈硬化】閉塞性動脈硬化症の治療法」に詳しくまとめました。
閉塞性動脈硬化症はどんなときに治療を行うか?
閉塞性動脈硬化症(ASO)の治療を行うのは、
自覚症状があるとき
(一般的には、薬物療法を行ってもFontaine分類Ⅱb以上の症状があるとき)
です。
例えば検査で偶然ASOが見つかったとします。
自覚症状がなければ、カテーテル治療やバイパス術などの侵襲的(しんしゅうてき;針を刺したり切ったりするような、身体に負担をかけること)な治療は、原則的には行いません。(もともとの持病や身体の調子などによって例外もあります。)
また、薬物療法で症状が良くなれば、合併症の恐れと治療による利益のバランスを考え、それ以上の治療(カテーテル治療・バイパス手術など)は行わないことがほとんどです。
いずれの治療法も、10年前に比べて大きく進歩しています。治療を受けられる方は、ぜひ主治医の先生にいろいろ聞いてみてください。
まとめ
閉塞性動脈硬化症(ASO)は、動脈硬化で血管が詰まることによって起こる病気です。
原因は、動脈硬化です。
動脈硬化になりやすい人として、高血圧、脂質異常症(コレステロールが高い)、糖尿病、喫煙、家族に動脈硬化の人がいる、などがあげられます
症状は、間欠性跛行(「歩くと痛い、休むと治る」といった足の症状)が一番有名ですが、最終的には「潰瘍(かいよう)・壊死(えし)」(=重症下肢虚血)になることがあります。
診断は、ABI、下肢動脈エコー、下肢動脈CT・MRIなど、いくつかの検査を組み合わせて行います。
治療法には運動療法、薬物療法、血行再建(カテーテル治療、バイパス手術)などがあります。運動療法以外は、自覚症状がある方にのみ行います。
歩くと足が痛む、動脈硬化が心配、という方は、お気軽にお近くの循環器内科を受診してみてくださいね。
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