平成29年4月17日付、日本経済新聞の記事です。
厚生労働省は17日、高齢者が複数の薬を服用した際の副作用リスクを減らす対策について、有識者会議で検討を始めた。医療現場向けの指針作成を目指し、2018年度末をメドに報告書をまとめる。
日本経済新聞電子版
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG17H8B_X10C17A4CR8000/
年を取ると、色々な場所に不調が出てきて、あちこちの病院でクスリをもらっているケースをよく見かけますよね。
心当たりはたくさんありますが、臨床医としては若干、ほんの少しだけ釈然としないものもあるのです。
■目次
実際の現場では、どのようになっているのか?
では、まず実際の臨床の現場ではどうなっているかをお伝えします。
私は循環器内科医ですので、高血圧や心不全、心筋梗塞の患者さんを診察する機会が多いです。心筋梗塞の患者さんは、脂質異常症や高血圧、糖尿病が危険因子となっており、これらに対する治療薬を処方することもよくあります。
記事でも指摘されているように、確かに1人の患者さんに複数のクスリを処方しています。
処方の際には、おくすり手帳などを確認し、極力最低限のクスリにするよう心掛けてはいますが、病状によっては10種類近くのクスリを内服している方も見られます。
病状が悪化し入院となった場合には、改めて、自分の病院だけでなくあらゆる病院で処方された薬、そして愛用している健康食品などについても病棟薬剤師さんが確認をしてくれます。
その際、外来での確認で洩れていたクスリ(人によっては病院ごとに薬局を変え、さらに薬局ごとにおくすり手帳を持っていたりするのです…うちの病院に来るときは、うちの病院のそばの薬局の手帳しか持っていない)があったり、確認した後に他院にかかって薬が処方されていたり、ということはざらにあります。
多い人だと、血圧のクスリ、心臓のクスリ、不整脈のクスリ、のほかに整形外科の痛み止めやしびれなどのクスリ(これがまた数が多い)、便秘のクスリ、コレステロールのクスリ、肝臓のクスリ、胃薬、睡眠薬、安定剤などなど含め、20種類以上のクスリを持ってくることもあります。
正直なところ、病名が不明であり、患者さん御自身もどうして飲んでいるかわかっていないクスリというものが結構あります。
(というか、もっと言うと、ご自分の病名をご自身できちんと言える方の方が少数派です。高齢になればなるほど、自分がどうして病院で薬をもらっているのかわかっていないケースが増えてきます。)
当院へずっと通っていただいている方の場合、カルテで経過を追うこともできますし、直接処方医に経緯を確認することもできるのですが、他院で処方された分に関してはお手上げ、ということも多いです。
中には効果が重複しているなど「これはどう考えてもいらないよね。」というものもあり、患者さんに説明して薬を止めることもあるのですが、大抵の方は「ずっと飲んでるものだから飲みたい」と内服を続けることを希望されます。
数が多くなればなるほどご自身での管理が難しくなり、結果として薬の飲み忘れなどが多くなる。
飲んでいないから効いていないだけなのに、私たち医師は外来での血圧や検査データから「薬が効いていない、もしくは量が足りない」と判断し、さらに薬を処方する、ということも稀なことではないと思います。
(処方の際はほとんどの場合で薬の残数を確認するのですが、医師の前では「全部飲んでます!」と言っている患者さんを入院させて薬を確認すると、大量に余っている、ということがよくあるのです…)
(ついでに言うと、「ある薬だけ飲んで他の薬は飲まない」とご自分で薬を選り分けている方もかなりいます。血圧の薬は飲みたいけど症状のないコレステロールの薬はいらない、など。「1回飲んで調子が悪くなったからあれは飲まない」「週刊誌(もしくはテレビ)であの薬はダメって言ってから止めた」ということもザラ。)
外来でこれらをきちんと伝えてくれると対処ができるのですが、まだ通っていただいて間がないなど信頼感がお互いにできていない段階では、それも難しいことがあります。
・・・なんだか愚痴みたいになってきたので、次に行きます。
多すぎる薬と副作用?
高齢者の薬の使い過ぎについては、すでに、2015年12月、日本老年医学会が日本医療研究開発機構研究班と共同で「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」というものを出しています。
「高齢者は多剤併用になっている方が多く、できるだけそれを減らした方が良い」というのが、このガイドラインの趣旨です。
ガイドラインの総論を見ると、「急性期病院に入院する高齢者の6~15%に薬物有害事象を認めており」「60歳未満に比べて70歳以上では1.5~2倍」となっています。
https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/topics/pdf/20150427_01_02.pdf
お年寄りは若者に比べ、腎臓や肝臓をはじめとした身体の機能に衰えがあり、「同じ量の薬を飲んでも血中濃度(血液中の薬の濃さ)が高くなりすぎる→薬の効果が強く出すぎたり、副作用が出やすくなる」というのは確かだと思います。
思うのですが、同じガイドラインの総論内にある「多剤併用の問題点」という項目の説明が釈然としないのです。
この部分の一番最初に書いてあるのが「薬剤費の増大」、2番目に来るのが「服用させる手間という意味でのQOLの問題」…
そこですか…
患者さん本位の話じゃないですよね、それ。
このガイドラインについて、私は日本老年医学会の会員ではないので全文を読むことはできず、これ以上の正確なコメントは困難です。
(これも後日改めて取り上げたいテーマではあります。学会員でなければ読めないガイドラインなど、意味がないと思うのですが…。ちなみに私の主分野である日本循環器学会はガイドラインを会員以外にも無料で公開しており、研修医の学習などにも非常に有効に利用させていただいております。)
そして、今回有識者会議を立ち上げるのが厚生労働省…
高齢者医療費の増大に悩む厚生労働省が、多剤併用について考える有識者会議を立ち上げる。
これ、どう考えても医療費削減のためですよね…
今でも実際、7剤以上薬を出すと処方箋料が減額されているのですが…
多剤併用の害を避けるために
ということで、今、私たちにできることを考えてみました。
一人の臨床医として、患者さんともっとコミュニケーションを取り、悪い情報も含め、すべて伝えてもらえるよう、人として信頼してもらえるように努力するのはもちろんのこと。
医療者サイドとしては、何とか患者さんにきちんと薬の内服状況などを正確に伝えてもらえるような工夫を考える。
例えば…
●かかりつけ薬局~これ、医療者からも患者さんからもあまり評判良くないんですが、一人の患者さんがどの病院で処方箋をもらっても1か所の薬局で薬をもらうということ自体は良いことだと思います。患者さんが飲んでいる全ての薬の把握ができるので。その代わり、結構なお金をいただくのですから、残薬を含め、きちんと薬を内服しているかなど、薬の管理に関わることは責任を持って全て行っていただきたいと常々思っています。
●訪問看護・ヘルパーさんと病院外来看護師との連携~患者さんには、医師には言いにくいことがある、というのもよくあります。そのような時、看護スタッフ同士でうまく連携が取れていれば、副作用などがあったときも早く発見できる可能性が高まるし、飲み間違い・飲み忘れなどの確認もしやすいと思います。看護スタッフのレベルの向上が必要ですが。
●ご家族の協力も大事~高齢になると認知症でなくとも認知機能はある程度低下します。「うちの親はしっかりしてるから大丈夫」「自分できちんと管理してるみたいだから問題ない」と結構無関心な家族の方も多いのですが、医療者から見ると全く管理ができていない、ということも少なくありません。週に1度でも、高齢のご家族と話をし、薬をちょっと見て差し上げるくらいの時間を取っていただけると、随分違うのに、と思うこともあります。
ついでに言うと、家族の方がどんな病気で、どんな薬を飲んでいるか知らない、という方も結構いらっしゃいます。病気や事故で救急車で運ばれた場合など、飲んでいる薬によってできない検査があったり、(特に心臓や脳の病気の方に多いのですが)血液が固まりにくくなるような薬を飲んでいる場合など、すぐに対処が必要な薬などを飲んでいることもあります。暇なときにでもご家族の通院に一度ついてきていただき、主治医から病状の説明を受けておくと、何かと役に立つと思います。
●技術の進歩~もう少し技術が進歩すると、「時間になったらアラームが鳴って服薬タイミングを教える薬箱」とかができないかな、と思うときがあります。所定の時間に薬箱を開けなかったら、家族やヘルパーステーションなど所定の番号に連絡が行く、とか。
色々考えることはありますが、少しでも多くの方に、少しでも元気で長生きしていただくことが、私たち医師の一番の願いです。
みんなで少しずつ頑張って、健康寿命を延ばしていきたいですね。
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