最近、医療現場では「性差」が話題です。
同じ病気でも、男性と女性で
- 病気にかかる割合がちがう
- 病気にかかったときの重症度がちがう
- 同じ病気なのに、異なった特徴をもつ
など、性別ごとに異なる特徴をもつことがあります。
心不全も、そんな病気の一つです。
今日は、心不全は男性と女性でどうちがうのか、についておはなしします。
■目次
心不全の性差に注目した研究結果がいくつかある。
日本に限らず世界各国で、心不全の性差に着目した観察研究がたくさんあります。
今日は、そのうち代表的なものについてザックリと紹介します。
フラミンガム心臓研究(米国)
女性は心不全の発症時の年齢が高い一方で,男性に比較して予後が良好である。
生涯における心不全発症リスクは、男女ともに5人に1人と同等に高率である。
ロッテルダム研究(欧州)
女性は男性と比較して心不全の発症頻度は低いものの,55歳以降の心不全発症リスクは男性33%,女性29%とほぼ同等であり,70歳以上では男性に比較して女性の心不全発症率が高い。
ATTEND研究(日本)
急性心不全発症後の全死亡率;観察期間中央値524日間で女性20.1%,男性18.4%
CHART-2研究(日本)
慢性心不全;男性にくらべて女性では左室駆出率が保持されており,虚血性心疾患の既往頻度が低い一方で弁膜症の頻度が高く、NYHA心機能分類は重症で、BNP値が高い。
粗死亡率は女性で52.4/1,000人・年,男性で47.3/1,000人・年とほぼ同等であるが、患者背景で補正すると男性にくらべて女性の予後は良好。
観察研究からいえること
以上の観察研究からわかるのは、
①女性は男性よりも心不全の平均発症年齢が遅い。
女性は男性よりも長生きであり、高齢になってから心不全を発症する人が多い
⇒生涯を通じた心不全リスクは男女でほぼ同等である。
②女性のほうが、心不全の予後が良い可能性がある。
という2点です。
どうして女性の方が心不全の発症が遅いのか?
女性の方が心不全の発症が遅い、ということの原因については、
女性ホルモン(エストロゲン)が心血管疾患に対して予防的に働く
という報告が数多くあることが関係している可能性があります。
エストロゲンには心血管に対する種々の保護的作用(血管平滑筋弛緩作用・脂質代謝改善作用・抗酸化作用・線溶系改善作用・一酸化窒素合成系酵素誘導作用)があるとされており、これらにより、閉経前の女性では男性と比べ虚血性心疾患が少ないといわれています。
ただし、エストロゲンはホルモン補充療法などで投与しても効果がないとする報告も多数あり、
今後の研究の進展が望まれる分野の一つです。
心不全で使うクスリの効き目にも性差がある可能性
また、心不全治療で使用する薬物の効き目にも性差があるという可能性が指摘されています。
一般論として、女性の方が副作用がでる確率が高い薬の方がおおい
一般的に、
- 薬物代謝酵素活性は女性の方が低いこと
- 腎クリアランスも女性で小さいこと
- 体格が男性に比べて小さいこと
より、女性では薬物血中濃度が高くなりがちであることがわかっています。
薬物血中濃度;
血液中の薬の濃さ。
高すぎると副作用が出やすくなり、低すぎると薬が効きません。
ちょうどよい血中濃度がどのくらいかについては、発売されている薬一つ一つについて製薬会社がきちんと調べています。
腎クリアランス;
腎臓の中で、1分間にどのくらいの血液をろ過できるか、というのが腎クリアランスの意味です。
たくさんの血液をろ過できる方が、腎臓の働きが良いと判断されます。
β遮断剤とACE阻害剤には効果に性差がある可能性
ここで、心不全治療に話をもどします。
心不全治療で使用する主な薬物のうち、
- β遮断剤
N Engl J Med 1996; 334:1349-1355. PMID: 8614419 - アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤
Am Coll Cardiol 2003; 41: 1529-1538. PMID: 12742294
について、性別によって効果に差があるという論文が出ています。
それに反して、β遮断剤もACE阻害剤も効果に性差はない、とする論文も複数でています。
β遮断剤もACE阻害剤も心不全治療では主役となる薬であるだけに、
今後のデータの蓄積を待ちたいと思います。
まとめ;心不全に対する性差医療は、これから発展する分野
これまでにわかっている、心不全に対する性差を簡単にまとめてみました。
今の時点で確実に言えるのは、
特に若い男性の虚血性心疾患を抑えることで心不全の数が減る
ということです。
今後の研究の進展により、心不全の内服治療などで性別を考慮する時代がやってくるかもしれません。
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