ここ数年、部活中に熱中症で倒れて後遺症を負ったケースが報道されるなど、「熱中症の後遺症(後遺障害)」に注目が集まっています。
熱中症というと、その場限りの病気、というイメージがあるかもしれません。
それは、誤りです。
まれではありますが、熱中症でも重い後遺障害が残ることがあります。
今回は熱中症の後遺症について
などを、熱中症診療ガイドライン2015の内容に沿って、詳しく解説します。
■目次
熱中症の後遺症でみられる症状は、頭の症状である。
熱中症の後遺障害で最もよく見られる症状は、中枢神経障害(ちゅうすうしんけいしょうがい;脳や脊髄(せきずい)の障害)です。
熱中症による中枢神経障害として報告例が多いのは、
- 小脳失調
- パーキンソン症候群
などの症状です。ちょっとむつかしい話になりますが、それぞれの症状について解説します。
小脳失調とは?どんな症状がでるの?
小脳(しょうのう)は、身体のバランスを取って歩行を安定させたり、記憶や学習、言葉を制御する働きをする部分です。
小脳失調(しょうのうしっちょう)の症状としては
- めまいがする
- 眼振(がんしん;細かい目のふるえ)がおこる
- 歩行が不安定になる(酔っぱらったときのような歩き方になったり、まっすぐ立てなくなる)
- 置いてあるものをうまく取ることができない(物と自分の距離を測れなくなること、そして手を伸ばして物を取る、などという連携した動作ができなくなる)
- 言葉がうまく出なくなる、もつれる
などがあります。
パーキンソン症候群とは?どんな症状がでるの?
パーキンソン症候群は、下に示す4つの症状(4大症状)のうち、2つ以上が認められる状態のことを言います。
- 安静時振戦(しんせん);だまっていても(腕、足、アゴなどが)ふるえる。
- 無動・寡動(かどう);動作が極めてゆっくりになる、表情が動かなくなる(仮面用様顔貌)、言葉が出にくくなる。
- 筋固縮(こしゅく);力を抜いているはずなのに、他人が動かそうとしても動かなくなる。
- 姿勢反射障害;バランスを崩したときに立て直そうとする反射が利かなくなる。この結果、歩くときに必要以上に前かがみになったり、歩幅が狭くなったり、突進して止まれなくなったりする。
これらの4大症状のほか
- 自律神経障害;便秘、吐き気、起立性低血圧、尿が出にくくなる(排尿障害)など
- 精神症状;感情が鈍くなる(感情鈍麻)、不安、うつ、認知症など
の症状が出ることもあります。
熱中症の重症度〜どんな熱中症が後遺障害を残しやすいのか?
後遺障害として1年以上残ってしまうような中枢神経障害は、どんな熱中症の時に起こりやすいのでしょうか?
これはずばり、重症の熱中症のあとに起こりやすいことがわかっています。
中等度の熱中症(熱疲労)のあとにも記憶障害(最近のことが覚えられないなど)や姿勢が不安定となる、などの症状がみられることがありますが、これらは半年程度で良くなることがほとんどです。
ちょっと古い熱中症の分類
熱中症は、以前は症状によって概ね以下のように分けられていました。
(情報が古いサイトだと、今でも下の分類法によって説明がされています。)
熱失神(heat syncope) |
|
熱痙攣(けいれん)(heat cramps) |
|
熱疲労(heat exhaustion) |
|
熱射病(heat stroke) |
|
この分類は昔から利用されている分類法であり、見た目の症状から「身体の中で今何が起こっているのか」を知るのには非常に役に立ちました。
いわゆる「熱中症」の最重症型は上記のうちの「熱射病」であり、これは上に挙げた通り
- 体温上昇(40℃以上)
- 発汗停止・皮膚の乾燥
- 意識障害
の3つがそろわないと診断できませんでした。
ところが、この分類法で「熱射病」と診断されるのは本当に最重症の人だけです。最重症までは至っていないけれども、「すぐに」対処しないと症状が重くなってしてしまう人を見逃す可能性がある、ということがわかりました。
そこでできたのが、日本救急医学会が中心となって策定した新しい熱中症の重症度分類です。
現在の熱中症の分類
日本救急医学会が定めた熱中症分類は、熱中症を症状に応じて最も軽いⅠ度~最重症のⅢ度に分けています。
臨床症状から見た昔の分類 | |||
Ⅰ度 | 熱けいれん 熱失神 |
めまい、立ちくらみ、あくび、汗を大量にかく、筋肉痛、こむら返り(足がつる)など
意識障害がない=比較的軽い |
現場で対処可能
改善しなければ病院へ |
Ⅱ度 | 熱疲労 | 頭痛、吐き気・嘔吐、身体のだるさ、力が入らない感じ、ぼーっとしているなど。
集中力・判断力の低下がある |
すぐ病院を受診 |
Ⅲ度 | 熱射病 |
|
入院が必要 |
赤字の部分はぜひ覚えておいていただきたいポイントです。
「意識障害を疑う=病院へ行く」と覚えておきましょう。
新しい熱中症の重症度分類を使う際の注意点
ここで、新しい熱中症の重症度分類を使うときに気をつけたいポイントを整理します。
高熱があるかどうか?体温を測るときに気をつけたい点
この重症度分類には入っていませんが、深部体温(直腸温)で39℃以上あれば熱射病の疑いがかなり強くなります。
直腸温は、直接肛門に体温計を挿し入れて測りますが、やり方を間違えると肛門や腸を傷つけることがありますので、ご家庭で測るのはあまりお勧めしません。
という場合は病院を受診しましょう。
ちなみに、脇の下で測る体温は「腋窩温(えきかおん)」といい、38℃以上で熱中症を疑います。ただし、腋窩温は脇の下を冷やしていると当然低めに出ますので、参考程度としてください。
症状を観察するときに気をつけたい点
熱中症の症状は、時間とともに刻々と変化します。場合によっては、非常に短い時間で意識障害が出てくる、ということもよくあります。
- 身体を冷やす
- 水分と塩分を補給する
- 安静にする
などの応急処置を行いながら、注意深く症状を観察してください。
最初はⅠ度に当てはまる軽い症状であっても、
などがあれば、すぐに病院を受診しましょう。
後遺障害を残しやすい熱中症の条件
後遺障害を残しやすい熱中症の条件として、病院に運ばれた時点で
・深部体温(直腸温)が高い(40℃以上)
・意識がない、血圧が低いなど、ショック状態に近い
重度の熱中症が挙げられます。
そのほか、「冷却終了まで長時間要している(長い時間熱が下がらなかった)」ケースが、後遺障害を発症する危険性が高いことがわかっています。
ということで、熱中症の後遺障害を残さないようにするためにも、誰でもできる応急処置を覚えておくことが大切です。
どこでも誰でもできる熱中症の応急処置
熱中症を疑う場合の応急処置の手順は、上の図の通りです。簡単に解説していきます。
応急処置の前に→意識がない場合、迷わず救急車を呼ぶ
熱中症かな?と思ったら…まず行うことは、意識があるかどうかを確認することです。
Ⅲ度の熱中症の場合、手当てが遅れると、後遺障害が残ったり、命にかかわる可能性があります。
・呼びかけに答えない…
・意識がもうろうとしている…
・視点が合わない…
・水を飲もうとしない…
など、意識障害の可能性がある場合は、迷わず救急車を呼びましょう!
熱中症の応急処置1 涼しいところに移動する
熱中症かな?と少しでも思ったら、まず涼しいところに移動しましょう。
可能であれば、エアコンの効いた室内、もしくは車の中が望ましいです。
それが難しければ、風通しの良い日陰を探すか、日傘などで日差しを遮ってあげましょう。
熱中症の応急処置2 服をゆるめ、身体を冷やす
その次には、身体を冷やすことが大切です。
- 着ている服を脱がす
- ネクタイや襟元、タイツ、下着など、身体を締め付けるものはゆるめる
- 手元に保冷剤や氷のう、氷枕などがあれば身体を冷やす
ゆったりした衣服に着替え、襟元をゆるめるだけでも、風の通りが良くなりますので身体が今以上に暑くなることを防げます。
良く冷える身体の冷やし方
もし手元に保冷材や氷のうがあれば、
- 首すじ
- わきの下
- 足の付け根
を重点的に冷やしましょう。
首すじ、わきの下、足の付け根の皮膚に比較的近いところに太い血管があるため、効率よく身体を冷やすことができます。
保冷材や氷のうがないときには、皮膚に直接水をつけて、うちわや厚紙、タオルなどであおいで風を送りましょう。
☆追記☆
他サイトで「「首・わき・鼠径部」を氷で冷やす方法では体温が全然下がらない」といった言及があったようですが、それは病院で行う治療のハナシです。
誰でもどこでもできる応急処置としては有効で、何もせずに病院へ運ぶよりもはるかに良いです。
皮膚に水をかける方法、あおいで風を送る方法などと同時に行うと、さらに効果的です。
熱中症の応急処置3 水分や塩分を補給する
自分で水分が取れるようなら、水分と塩分を補給します。
この時点で
- 意識がはっきりしない
- 吐いている・吐気がある
など、自力で水が飲めないようなら、すぐに病院を受診しましょう。
水分と塩分の両方を効率的に補給するためには、水やお茶よりも
- スポーツドリンク
- 市販の経口補水液
などがおススメです。
応急処置1~3までやっても症状が良くならないときは、迷わず病院へ行こう
この3つを行っても調子が良くならない場合、もしくは意識がはっきりしない場合は、無理せず病院を受診しましょう。
病院に行くときは、「調子が悪くなったところを見ていた人」と一緒に行くことをお勧めします。
具合の悪くなったとき、倒れたときの様子がわかると、より適切な処置を受けることができますよ。
まとめ;重度の熱中症のあとには後遺障害が残ることがある
重症の熱中症のあとには、命が助かっても、後遺障害として中枢神経障害(小脳失調、パーキンソン症候群など)が残ることがあります。
後遺障害を起こさないためには
- 熱中症の重症度をキチンと見分けること
- 一見症状が見える熱中症でも、どんどん悪くなることがあるのを知っておくこと
- 熱中症かもと思ったら、身体を冷やすなどの応急処置をしっかり行うこと
が大切です!
たかが熱中症…と軽くみることなく、意識がない、呼びかけに答えないなどがあったら、すぐ病院へ連れていきましょう!
応急処置の前に大切なことは、意識がない場合、迷わず救急車を呼ぶことです。
熱中症の応急処置1 涼しいところに移動する
熱中症の応急処置2 身体を冷やす
熱中症の応急処置3 水分や塩分を補給する
これだけ覚えておくと、万が一のときに役に立ちますよ。
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