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入院ベッド15万床削減されたらどうなる?

病室のベッド 未分類
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今日はちょっとお堅い話をします。

今日付けの朝日新聞デジタルに、以下のような記事が配信されていました。

■目次

入院ベッド15万床削減 25年、医療費減へ在宅移行

2025年の医療の提供体制を示す「地域医療構想」が各都道府県でまとまり、全国で計15万床以上の入院ベッドを減らす計画となった。

引用:朝日新聞デジタルhttp://digital.asahi.com/articles/ASK3Y41HBK3YUTFK008.html?_requesturl=articles%2FASK3Y41HBK3YUTFK008.html&rm=379

 

どうして入院ベッドを減らす必要があるの?

医療関係者であれば、一度は耳にしたことがあるであろう

2025年問題」に対する対策のためです。

 

2025年問題って何?

2025年問題」とは、

団塊の世代が2025年頃までに後期高齢者(75歳以上)に達する事により、介護・医療費等社会保障費の急増が懸念される問題

引用:一般社団法人ディベロップメントシニアPCコミュニティ 2025年問題よりhttp://dspc2007.com/2025.html

のことを指します。

2025年(平成37年)に起こることを具体的にいうと、

  • 高齢者人口(65歳以上)→3500万人に増加(全人口の約30%

このうち認知症高齢者が320万人

高齢者夫婦のみ、または高齢者の一人暮らし世帯が37%

  • 生産年齢人口(15~64歳)→7000万人に減る

つまり、

お年寄りは増えるが働き手は減る

「お年寄りが増えるので、認知症のお年寄りも増えて介護の手が足りなくなる

「今よりもっとお金(医療・介護にかかるお金=社会保障費)がかかるようになるけど、若者が減るのでお金を出す人がいなくなる

ということが起こるらしいのです。

 

どうして「2025年問題」の対策として入院ベッドを減らす必要があるの?

ざっくり言うと、入院する=お金(医療費)がかかるからです。

現在、国民の医療費のうち40%弱(医科利用分=病院・クリニックで使った分の約半分)が入院診療で使われています。

(厚生労働省がまとめた「平成26年度 国民医療費の概要」より)

その入院のうち、「緊急に治療する必要のある病気のために入院している人」のいる「急性期病棟」を極端に減らすことは難しいと考えられるため、「緊急で治療すべき病気はないものの、いろいろな事情で在宅で療養することができない人(=状況が整えば、入院している必要がない(かもしれない)人)」が入院する「療養型病床」を減らすことで医療費を下げたい、というのが厚生労働省の気持ちです。

ニッセイ基礎研究所が出したレポート(医療の国際数量比較-日本の医療は世界一か?)に詳しい解説がありますが、実際に、他の国と比べると、日本のベッド数および入院数は非常に多いということがわかります。

 

まあ、高齢化社会の結果として人口減少社会の到来も見えてきている現状では、ある程度の削減を、という発想はやむを得ないのかもしれません。

この発想は、高齢化率や今後の高齢化の進行状況の予想など、地域ごとの実情を踏まえて今後数十年の医療計画を作るよう、都道府県に出した指令(「地域医療構想策定ガイドライン」)にも見て取れます。

都道府県は、このガイドラインをもとに地域ごとの医療計画を策定し、国に届けることになっています。

要するに、「責任もって計算して、入院ベッドを減らせよ!」ということですね。

これは、これ以上の社会保障費の増大を防ぎたい国の意向としては、無理もない考え方だと思えます。

マクロ的には。

ですが、現場の医者からミクロ的にこれを見るとどういうことが起こっているのでしょうか?

 

事件は現場=病院で今も起こっている!

では、どうして「緊急で治療する病気が存在しないのに入院している人」=療養型病床が存在するのでしょうか?

それは、「家に帰りたくても帰れない」からです。

どうして帰れないのか?

理由は様々ですが、主に「家には必要なだけの介護力がない」ことが多いです。

身寄りのない方、体力が落ちて歩けなくなってしまったけど家族も体が弱くて世話できない方、認知症がひどく夜中に徘徊し家人が面倒を見切れなくなった…などなど、いろんな理由があります。

 

在宅医療は本当にどこの地域でもすぐに受けられる?

地域にもよるとは思いますが、国が盛んに推し進めている在宅医療も機能していません。

在宅医療でやっていけるだけの制度は作ってあるのかもしれませんが、(金銭的にも使い勝手的にも、そして設備や人員の面でも)介護する人、される人、双方にとって使いやすい制度ではなく、特に地方では24時間介護の担い手が非常に少ないこともあり、結局、家族に介護の負担のほとんどを負わせる形になっています。

そして、私の住む北海道は特に、かもしれませんが、地方の経済は疲弊しています。

よくあるパターンといて、家族は孫世帯も含めたくさんいるのだけど、一人当たりの収入がかなり低いこともあり、結局全員働きに出ていて、日中にお年寄りを見ることのできる人が誰もいない。

ヘルパーさんや看護婦さんは、週に何回か来てくれるけど、ほとんどの時間をお年寄りおひとりで過ごすはめになってしまい、食事もうまく取れなければ薬も飲めず、すぐに病状が悪化してしまう…

そうなると、せっかく在宅医療を受けるように手配して退院していただいた患者さんも、具合が悪くなると家族の介護力では面倒を見切れないのか、入院を希望して急性期病院へ紹介されてくることが多いです。

 

急性期病院で高齢者(在宅の方を含め)を数多く入院させるとどうなるか?

急性期病院でそのような方の入院をお引き受けすると、当然もともと余病がなく元気な方よりも体力の低下が激しく、合併症などにかかる率も高く、入院期間が長くなります。

急性期病院では、国の施策上、長期間の入院はお引き受けできないので、病状が安定した場合には、長くても数か月で退院していただく必要があります。

その際、「退院時カンファレンス」と言って、医師や看護師、介護福祉士、ソーシャルワーカー、理学・作業療法士などのリハビリスタッフ含め、病院内のいろいろな職種の人が集まって会議をします。

その方お一人お一人の、病状はもとより、ADLといってどのくらい身体を動かすことができるか、また生活能力はどのくらいあるか、家庭の状況はどうなっているか、介護保険など含め、どのような在宅および施設入居を含めたサービスが使えるか、など、様々な角度から詳細な検討がなされます

最近の傾向として多いのが、先にも挙げた「独居、もしくは高齢夫婦のみの世帯」が非常に多いです。

そのような場合、夫婦の片割れも軽い認知症があったり麻痺などがあって体が不自由であるというケースもかなりあり、無理して退院させたとしても、例えば「薬を毎日決められた時間に飲む」「食事を3食食べる」などといった、基本的な生活すら営めないであろうという状況の家庭が大半です。

家族の介護力が足りないと、退院しても行くところがなくなり、結果、療養型病院のお世話になるしかない、という方も多いのです。

 

必ずしも「病院」ではなくてもよいのだが…

さらに、「病院じゃなくても、老健などの施設でもいいんじゃない?」という声も多くありますが、そもそも特別養護老人ホームや介護老人保健施設といった、24時間介護がついているタイプの老人施設は常に満床であり、療養型病院よりも非常に長い入所待機期間があることがほとんどです。

そしてここに、日本人ならではの「病院にいたらとりあえず安心」という独特の思想が加わり、いつまでたっても療養型病床の患者さんは減らない、という悪循環となっていると思われます。

実際は、療養型病院でも特別養護老人ホームでもそこまでの違いはなく、かえって施設の方が「生活の場」という観点から見ると望ましいことも多いのですが、退院調整を行うべく患者さんのご家族とお話しすると、「やっぱり病院の方が」と入院継続を強く希望されることがほとんどです。

患者さん本人は言うに及ばず、ご家族の方も「慣れている病院を離れたくない」という気持ちはよくわかりますが、急性期病院の立場からすると、治療する病気がない方は速やかに退院してくれないと、今度は緊急を要する次の患者さんをお引き受けするベッドがなくなる…。

現場としては、非常に困ってます!

(これには、日本の手厚い入院医療給付といった別の問題が絡みます。たぶん。下手をすると、家で暮らして家賃や光熱費、食費を払うよりも、病院に入院している方が、月々の負担がずっと軽いのです…。その方が加入している健康保険や収入の状況にもよりますが…。家に帰るとそのほかに、ヘルパーさんや訪問看護師の費用も一部負担しなければならないので…。)

 

片田舎の臨床医としての、ちょっとした結論

国も「地域包括ケア病棟」といった、在宅へ戻るためのリハビリや環境調整の準備を行う専用の病床などを作ったり、いろいろ考えているのは良くわかります。

わかるのですが、マクロ的視点だけでみるのではなくミクロ的な視点も少しだけ持っていただけると随分助かりますし、マクロ的な視点でしか見られない、ということであれば、医療現場にだけ負担を押し付ける病床調整の他にも、ぜひ医療給付の適正なあり方(ぶっちゃけ、家にいるよりもよっぽど安い値段で入院、というか生活できるというのはどうなのか?、とか、今回の本題ではないですが、生活保護の医療扶助のあり方、とか…)についても合わせてご検討いただければありがたいな、と心から思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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