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「ブラック産業医」について考える

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少し前ですが、このようなニュースがありました。

「ブラック産業医が復職阻止、クビ切りビジネスをしている」弁護士が警鐘

企業と組んで、不当な解雇に手を貸す「ブラック産業医」が問題になっているとして、労働問題に取り組む弁護士らが4月13日、厚生労働省に申し入れを行った。

50人以上の労働者がいる事業場は、産業医を選任しなくてはならない。産業医の仕事の1つに、職場復帰の支援があるが、従業員の復職を認めず、休職期間満了で退職に追い込む「クビ切りビジネス」に手を染める者もいるという。

弁護士ドットコムより引用
https://www.bengo4.com/c_5/n_5963/

この記事の要点は

神奈川県の団体職員だった女性Aさん(43)が、職場でのパワハラやいじめの結果うつ病を発症。休職後、体調が回復したので主治医の診断書を持って復職を願い出たところ、精神科の専門医ではない産業医に「統合失調症」「混合性人格障害」など一度も受けたことのない病名を付けられて復職を否定する意見書を書かれ、結果として休職期間満了で退職扱いされた。

というものです。

この報道だけでは情報が少なすぎるため、この企業の産業医が本当に「企業と組んで、不当な解雇に手を貸す「ブラック産業医」」であるのかどうかは判断がつきません。

もともとのソースが「弁護士ドットコム」ということもあり、弁護士に寄った視点から話が進んでおり、一方の当事者である産業医の意見は、一言も記事内には触れられていません。

このような一方的な報道を見ると、現場で真面目にやっている産業医の友人や数多くの知人を思い出し、とても悲しい気持ちになります。

 

■目次

そもそも「産業医」とは?

産業医とは、

事業場において労働者の健康管理等について、専門的な立場から指導・助言を行う医師を言います。労働安全衛生法により、一定の規模の事業場には産業医の選任が義務付けられています。

日本医師会・認定産業医サイトより
http://jmaqc.jp/sang/occupational_physician/

ここでいう「一定の規模」とは、「労働者数 50 人以上」を指します。

総務省・経済産業省「平成24年経済センサス-活動調査(企業等に関する集計 産業横断的集計)」によると、日本には4,128,215の事業所があり、そのうち50人以上の従業員を雇用する事業所は 122,973、事業者全体の3%であったそうです。

ただし、労働者のおよそ60%は、従業員数が100人以上の企業で働いています。

参照;総務省・経済産業省「平成24年経済センサス-活動調査(企業等に関する集計 産業横断的集計)」

クリックして02_2_chosakai_todoufuken.pdfにアクセス

このように考えると、意外と産業医というのは身近な存在なのかもしれません。

 

産業医の仕事

産業医の仕事は、意外と多岐にわたります。

産業医の職務は、労働安全衛生規則第14条第1項に規定されており、具体的には次の事項で、「医学に関する専門的知識を必要とするもの」と定められています。

  • 健康診断及び面接指導等(法第66条の8第1項に規定する面接指導及び法第66条の9に規定する必要な措置をいう)の実施並びにこれらの結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること。
  • 作業環境の維持管理に関すること。
  • 作業の管理に関すること。
  • 前3号に掲げるもののほか、労働者の健康管理に関すること。
  • 健康教育、健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るための措置に関すること。
  • 衛生教育に関すること。
  • 労働者の健康障害の原因の調査及び再発防止のための措置に関すること。

日本医師会・認定産業医サイトより
http://jmaqc.jp/sang/occupational_physician/

真っ当な産業医は、昨今の報道にあるような「企業寄り」のポジションというわけではなく、「企業」と「労働者」がともに健康で、幸せに働けるような会社をつくること、を目標に日々業務を行っています。

産業医と主治医の意見が異なる理由

この、「企業」と「労働者」がともに健康で、というところが今回の記事のポイントだと思います。

主治医」(臨床医)は、自分の患者さん=「労働者」だけを見て治療を行っています。
今回のようなケースも含めて、働いている方の場合には、当然のことながら1日の中でも長時間を過ごす「職場の環境」などにも注意を払いながら治療を進めていきます。

この「職場の環境」というのは、「患者さんの自己申告」です。
実際に自分の患者さんの職場まで出向いて環境を確認するという臨床医は、まずいないと思われます。
(すみません、私もちまちま話をお聞きする方ですし、カルテの片隅には家庭環境や職場、趣味など病気と関係ありそうなことを書いていたりもするのですが、さすがに職場視察まではやったことありません。そんな時間の余裕は世の中の臨床医にはまずないと思います。出向いてらっしゃる先生がいたら、大変申し訳ございません)

ですので、診察室にいらした患者さんの様子を見て、患者さんのことだけを考えて復職できるかどうかの判断を下します。

そこには、患者さん御本人の意向が多少反映されることもあります。

それに対し「産業医」は、「労働者」と「企業」がともに健康である、という視点でものを考えます。

日常生活はきちんと営めるようになり、「患者さんの自己申告」から想定された職場であれば復帰可能、と「主治医」が判断したとしても、「この職場に来ると調子が悪くなる」というケースは山ほどあります。

今回の記事のケースもそうですが、そもそも発病のきっかけがその職場の中にあるからです。

直接職場を見ている、あるいは職場の上司や同僚、雰囲気や長時間労働の有無などの環境要因をみることのできる「産業医」から見ると、職場環境も同時に改善しなければ「この職場の環境にさらされることで病気が再度悪くなる可能性がある」、さらに言うと、特にうつ病の場合「自殺」という一番悲しい結果に陥ることが想定される場合もあります。

職場環境を変えるのは、皆さまご存知のとおり一朝一夕で行えるものではありません。

また、メンタル系の疾患の場合、病気の関係で自分自身を客観的に見ることがむつかしくなっていることがあります。

自分では「復職しても全然大丈夫」と思っていても、他人から見ると「職場でみるあの人はかなりつらそう」となるのはそのためです。

「労働者」と「企業」の健康を守るために「復職不可」と判断する可能性があるのです。

 

「産業医」と「主治医」の違い

ここで押さえておきたい点は、「産業医」と「主治医」の一番の大きな違いです。

産業医は労働者を診察しません。当然、診察の結果としての診断も下しません。

産業医面談は、あくまで「主治医の診断をもとに」「この職場で労働者に起きている(病気のための、もしくは病気につながるかもしれない)不都合にどう対処するか」という点を解決するために行うものであり、病気を診断して治療を行うためのものではありません。

視点が違うので、「産業医」は「主治医」にはなれないのです。

ですので、「産業医」は、病院の紹介は行いますが、あえて患者さんの主治医にはならないことが大半です。(特に精神科がご専門の産業医の場合、メンタル系の疾患の方から主治医を依頼されることもあるようですが。)

 

今回のケースより見えてくること

この報道がすべて事実なら、悲しいですが「産業医」は正しく業務を果たしているとは言えません。

上記のとおり、「診断を下すこと」ことはそもそも産業医の業務ではないからです。

旧態依然とした産業医の中には名義だけを貸して職場巡視なども行っていない方がまだいるようです。

そのような産業医についてしまった会社の方は気の毒としか言えません。

 

私はまだ新米の嘱託産業医(月に数時間会社に出向く)ですが、働く人が健康で楽しく働ける職場づくりのお手伝いができるといいな、と思っています。

専属産業医をやっている私の友人たちのように、「人生でかなりの時間を費やす職場こそ、楽しく幸せな環境にするべきだ、そうすることで生産性が上がり、企業にとってもプラスになるはずだ」という信念を持ってやっている産業医がもっとたくさん増えるといいな、と思っています。

 

以上、「「ブラック産業医」について考える」でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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