キスで感染することがある「伝染性単核球症(でんせんせいたんかくきゅうしょう)」、別名「キス病」。
最近、思春期以降に原因となるEBウィルスに初めて感染し、この病気にかかる方が増えています。
今回は、「伝染性単核球症」を疑うときに行う検査、そして診断を行うときの目安(診断基準)について説明します。
■目次
「伝染性単核球症」を疑うときに行う検査
まずは血液検査を行います。
最初は、血算・白血球分画、肝機能検査など、健康診断でも行うような一般的な検査を行います。
その結果、「伝染性単核球症」の疑いが強いと判断されれば、「伝染性単核球症」の原因ウィルスであるEBウィルスの特異抗体測定など、専門的な検査を行います。
またEBウィルス以外の他のウィルス感染による症状を否定するため、サイトメガロウィルス抗体検査、咽頭ぬぐい液によるA群溶連性レンサ球菌迅速検査などを行います。
以上より、「伝染性単核球症」の診断のためには、通常は複数回の血液検査が必要となります。
「伝染性単核球症」のとき、血液検査ではどんな特徴がでるの?
「伝染性単核球症」の血液検査には、いくつかの特徴があります。
「伝染性単核球症」ではリンパ球が増える
「伝染性単核球症」の血液検査の特徴として、まず第一に挙げられるのが
リンパ球(白血球の一種)が正常よりも明らかに増える
ことです。
リンパ球を含むすべての白血球の正常値は3300~8600/μL、
白血球のうちリンパ球の割合は男性で26.8~43.8%、女性で24.5~38.9%
とされています。
これが「伝染性単核球症」になると、
リンパ球だけで4500/μL以上、割合では50%以上
に上がります。
さらにリンパ球のうち、通常ではほとんど見られない異型(いけい)リンパ球が10%以上 出現していれば、かなりの確率で「伝染性単核球症」と診断できます。
「伝染性単核球症」では肝臓の数値が悪くなる
また「伝染性単核球症」の場合、ほとんどのケースで肝機能障害が出現します。
AST、ALT、ALPの上昇をはじめ、40%の例ではビリルビンも上昇します。
「伝染性単核球症」と診断するときに必要なウィルスの検査
さらに確定診断のために、EBウイルス特異抗体の検査を行います。
EBウイルス特異抗体には3種類あり、それぞれ
- Virus capsid antigen(VCA)抗体
- early antigen(EA)抗体
- EBV nuclear antigen(EBNA)抗体
と呼ばれています。
「伝染性単核球症」の診断目的にはおもにVCA抗体を使用しますが、目的に応じてEA抗体やEBNA抗体を組み合わせて利用します。
また、急性期と回復期に採血を行うこともよくあります。
VCA抗体について知る
VCA-IgM抗体はEBウイルス感染の急性期に検出され、3カ月後には消える抗体です。
したがって、これが上昇しているということは、現在感染の急性期であるということを示しています。
VCA-IgG抗体は急性期から陽性化するのですが、本格的に上昇するのは回復期です。
この抗体は一度できると生涯陽性が持続するとされています。
したがって、VCA-IgG抗体が陽性である、ということは「EBウイルスに感染したことがある」(今感染しているかどうかはわからない)ということを示します。
EA抗体について知る
EA抗体は急性期の終わりころから陽性になり、数か月後には消えてしまいます。
急性感染の指標となりますが、感染があっても陽性にならないこともあります。
EBNA抗体について知る
EBNA抗体も感染後に上昇する抗体で、おもに6~12週間後に陽性となります。
この抗体も生涯陽性が持続します。
「伝染性単核球症」の診断基準
「伝染性単核球症」の診断基準として、以下の項目が用いられています。
ちょっと専門的で難しいので、
「伝染性単核球症」の診断には、症状と血液検査が大切
ということを覚えておいていただければよいと思います。
この診断基準は小児の診断を行うために作られたものです。
成人には明らかな診断基準がないので、おおむね小児のものと同様の手順で診断されています。
正確な診断には何度か採血が必要となります。
血液検査のみかたは上の説明文をごらんください。
臨床所見;以下のうち3項目以上を満たす
- 発熱
- 扁桃・咽頭炎(のどがはれる)
- 頸部(けいぶ)リンパ節腫脹(≧1㎝)
- 肝腫大
- 脾腫(脾臓は身体の上から触れば腫大しているとみなします)
検査成績;
- 末梢血リンパ球数≧50%あるいは≧5000/μL
- 異形リンパ球数≧10%あるいは≧1000/μL
- 異形リンパ球あるいはHLA-DR+T細胞≧10%もしくは≧1000/μL
血清学的所見;
- 急性期VCA-IgM抗体陽性、のちに陰転化
- VCA-IgG抗体の4倍の上昇
- EA抗体の一過性の上昇
- 急性期VCA-IgG抗体陽性でのちにEBNA抗体が陽転
まとめ
「伝染性単核球症」を疑うときに行う検査、そして診断を行うときの目安(診断基準)について説明しました。
診断基準に挙げられている症状は、いずれも「伝染性単核球症」の3大症状として知られる非常に有名なものです。
これらの症状を覚えておき、キスや口移し・回し飲みなど、他人の唾液に触れる ような行為をした1か月後くらいにこれらの症状が出てきたら、一度病院を受診してみましょう。
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