ちょっと前のニュースですが、ぜひとも話題にしたかったニュースがこちら。
短いニュースなので、全文を引用します。
せき止め薬「コデイン」小児への処方制限へ…副作用で呼吸困難恐れ
厚生労働省は16日、せき止め薬などに使われる「コデイン」と呼ばれる成分を含む医薬品について、小児への処方を制限する方向で検討すると発表した。
小児で、ごくまれに重篤な呼吸困難の副作用が生じる恐れがあり、欧米など海外の一部では処方制限が行われている。
厚労省によると、コデインはモルヒネに類似した成分。国内では、医師による処方箋が必要な医療用医薬品で約60製品、市販薬では約600の製品で使われている。添付文書で、小児に対し慎重に投与するよう求めていた。具体的な処方制限の内容や対象年齢などは、6月に開く有識者検討会で決めるとしている。
読売新聞「ヨミドクター」より引用
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20170517-OYTET50005/
ちょっと読んだだけでは、「コデイン」って危ないんだ~、くらいの感想にしかならないと思いますが、注意して使わないと、本当に危ないんです!
基本的には、ごく少量とはいえ麻薬系の成分が入った薬が薬局で普通に購入できてしまうところに問題があるとは思いますが…。
小児用のかぜシロップなどによく入っているのは「ジヒドロコデイン」で、「コデイン」よりも咳止めとしての作用および鎮痛剤としての作用が強い薬です。
呼吸抑制作用はともに「モルヒネ」よりも弱いとされています。
ジヒドロコデインリン酸塩「タケダ」原末/ジヒドロコデインリン酸塩散10%「タケダ」
http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/8115003X1100_1_04/
数年前からカナダ、イギリス、アメリカでは国や学会などで同様の勧告が出ています。
日本はちょっと対応が遅いな、と思っていたところです。
今回のニュースは、珍しく「厚生労働省、いい仕事してるね~」なんて思いました。
■目次
「コデイン」って、どんな薬なの?
ここで話題になっているのは、「コデイン」という成分についてです。
本文では、さらっと「コデインはモルヒネに類似した成分。」とだけ説明されており、どんな薬か、そして何に効く薬なのか、については全く触れられていません。
これは、記事としてはちょっと片手落ちかな、という印象を受けます。
あるいは、「コデイン」もしくは「モルヒネ」について詳しく説明してしまうと、ちょっとした混乱が起こるかもしれない、と危惧しているのかもしれません。
ですが、「コデイン」がどんなものかわからないと話が見えないので、少しだけ解説いたします。
「コデイン」は、「モルヒネ」と同じくオピオイドの一種であり、麻薬系鎮咳薬(ちんがいやく;咳止め)として処方される薬です。
※オピオイドとは?
体内のオピオイド受容体に結合する物質の総称です。
オピオイド受容体は脳や脊髄、末梢神経などに存在しています。
オピオイドを使用することで
- 鎮痛(痛みを止める)
- 鎮静(気持ちを落ち着かせる)
- 鎮咳(咳を止める)
- 多幸感
などの多彩な作用が得られます。
主に他の痛み止めを使用しても効果がない場合の痛み止め、特にがんによる痛みを取るための薬として使用されます。
痛み止めとしての効果が高い反面、胃腸の動きを抑えることによる悪心・嘔吐、便秘、呼吸抑制(呼吸を止めてしまう)、耐性(同じ量では身体が慣れて効果がなくなり徐々に使用量が増える)、依存性(その薬なしでは正常に生活できなくなる)、急に使用をやめた場合の離脱症候群など、様々な副作用が出現することでも知られています。
オピオイドとして代表的な薬は「モルヒネ」です。
日本でよく利用されているそのほかのオピオイドとしては、今回問題となっている「コデイン」のほか、「オキシコドン」「フェンタニル」「トラマドール」などがあります。
「コデイン」は、化学的には「メチルモルヒネ」と呼ばれており、モルヒネをメチル化した化合物です。
取り込まれた「コデイン」の10%が体内で「モルヒネ」に変わります。
痛み止めとしての作用は「モルヒネ」の1/6と弱いですが、「モルヒネ」よりも咳止めとしての作用が強いことが知られており、痛み止めとしてよりは咳止めとしての使用が一般的となっている薬です。
「コデイン」の咳止めとしての作用は、脳にある咳中枢に働きかけることで発揮されます。
「モルヒネ」と比べると習慣性・依存性も少ないといわれており、咳止めとして薬局でも市販されています。
どうして「コデイン」が入っていると悪いのか?
では、どうして「コデイン」がこども用の咳止めに入っていると良くないのでしょうか?
- 海外で「コデイン」を使用された小児に死亡例が出ていること
- 「コデイン」はわずかながら気管支収縮作用を持っており、むやみやたらに咳止めとして使用すると、気管支喘息(気管支が収縮して気道が狭くなることで呼吸困難となる)の小児の場合には致命的となる可能性のあること
- 遺伝的に「コデイン」から「モルヒネ」が造られる速度が尋常ではなく速い人がおり、そのような人が「コデイン」を服用すると体内に大量の「モルヒネ」が造られて中毒となる可能性があること
- (小児用の薬にもかかわらず大人が)咳止めシロップを乱用し、「コデイン」中毒となる例が見られること
などの理由が挙げられます。
実際に病院でも、大人の方に対しても、初診の風邪の患者さんに咳止めとして「コデイン」(リン酸コデイン)を処方することはほとんどありません。
まずは非麻薬系の鎮咳薬から処方し、効果がなければ呼吸器内科の専門医の受診をお勧めすることがほとんどです。
理由は上に挙げたのと同様であり、「咳止め」としての効果は高いものの、それ以上に「副作用」が大きい薬だからです。
私、医師になって四捨五入すると20年ですが、リン酸コデインを処方したことは片手で数えられるくらいです。
しかも、他院で処方されて飲んだことがある、とかいう場合のみで、自ら進んで処方しようと思ったことがありません。
ましてや小児科の医師が単なる風邪に最初から「コデイン」を処方するとは思えません。
どうして「コデイン」が薬局で買える小児用の市販薬に入っているのか?
それは実際にそれらの薬を製造・販売している会社さんに聞いてみないとわかりませんが…
おそらく「効く=症状を抑える」からじゃないかと思います。
市販薬の難点は、いくら安全性を売りにしたところで「効果がなければ次回は購入してもらえない」ところにあると思います。
ですので、「使用量・回数をきちんと守ればほとんど問題がない」ことがわかっている「効果の確かな成分」を配合したい気持ちはわかります。
今回問題になっている「コデイン」のほかにも市販の風邪薬には色々な成分が含まれており、総合的にみると病院で処方する風邪薬よりもはるかに「症状を抑えてくれる」のです。
ですが、仮にも「麻薬性」の成分を配合しているのですから、せめてパッケージにで
「麻薬性」の成分を配合していること
わずかながら通常の薬よりも危険性が高く、副作用が出やすいこと
くらい明記しておいていただきたいな、と思います。
風邪薬を購入する際に気を付けること
薬局で風邪薬を購入する際にはパッケージの成分表をご確認いただき、「リン酸コデイン」「ジヒドロコデイン」など、「コデイン」と入った成分の記載があれば要注意!
このような場合は、どうしてもつらい時期に短期間(1~2日)の使用にとどめてていただければ問題ないと思います。
さらにいうと、風邪薬は症状を抑えてくれるだけで、風邪を治す効果はないことは覚えておいてください。
本来、風邪はウイルス感染症であることがほとんどであり、特効薬はありません。
栄養を取ってゆっくり休養することで、自然と治るものです。
今の日本人は忙しく、「風邪くらいじゃゆっくり休めない😖」という方が大半なのは理解しています。
風邪薬は「どうしても休めない」ときに症状を一時的に抑えるためのもので、身体には無理がかかっている、ということを忘れてほしくないな、と思います。
風邪症状が4,5日たっても全く良くならず、かえって悪化する、もしくは食事も食べられず水も飲めない、というときには病院を受診してみてください。
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