先日、息子の高校の保護者向け進路説明会に出席してきました。
外部の模試の成績の推移や学年としての最近の状況、昨今の受験制度についてのおさらいと今後の受験までのタイムスケジュールなどについての説明を受けました。
その中で詳しい解説があったのですが、ここ数年、医学部医学科、つまり医師を目指す高校生が非常に増えているそうです。
(注)最近、医学部にも医学科以外の科、例えば看護学科、保健学科などが併設されるケースが増え、医学科以外の卒業生が「医学部」を前面に出して執筆活動を行っている例があるようです。
誤解のないようにするために、あえて「医学部医学科」という表記を用いています。
実際に、医師として働いている身からすると、ちょっとした違和感を覚えます。
■目次
高校生の進路希望の理由に、ちょっとした違和感を覚える
高校生が医師を目指す理由とは?
では、どうして医学部医学科の志望者が増えているのでしょうか?
昔から多いのは、
自分(もしくは家族)の病気をきっかけに、医師の仕事に憧れた
というケースです。
王道パターンですね。
父親の病気をきっかけに、職業としての「医師」の良さに気がついた私も、このパターンです。
最近多く聞かれるのは、
- 成績優秀者には学校側が医学部医学科進学を勧める
- 「結婚しても働けるから」として、資格職の一つとして医師を目指す
といったもの。
また、今シーズン放映されている「コード・ブルー」をはじめとした、医師を主人公にしたTVドラマの影響も見過ごせないとのことでした。
そして、意外と多いのが「親が医者だから」という理由で医学部医学科の進学を希望するケースとのこと。
息子(某私立中高一貫校)に聞いても、「クラスの半分以上は医学部医学科志望、そのうち医師の子弟が半分以上」と言ってました。
開業医の子弟だと家を継ぐために仕方ないのかもしれませんが…
そして、親や親せきに「医師になること」を強制されている(でも成績は足りない)ケースもあるようですが…
それにしても、思考停止というか、身近な職業で憧れやすいのを差し引いてもちょっと安易だなというか…
何といって良いのか、いまいちよくわかりませんでした。
ちなみに、我が息子は社会学部進学を希望しています。
「お母さんを見ていると、医者って割に合わないと思った」んですって。
最近の医学部医学科受験事情
実際の受験については、私たちの時代(一応センター試験世代です)よりも、医学部医学科の受験は難易度が上昇しているそうです。
2017年現在、医学部医学科に合格するためには、もともとの成績にもよりますが、高校生活をほぼ受験一色で過ごす覚悟が必要、とのことでした。
(例)息子の高校では、東大・京大・医学部医学科を目指す進学クラスに在籍していると、高校2年生の終わりで部活を半強制的に引退させられます。
そんな受験戦争の日々から早?年、すでに医師であるということが日常的になってしまったオバチャン女医としては、考えるところの多い進路説明会でした。
私の医学部医学科合格体験記
ということで、まずは私のある程度のプロフィールと、医学部医学科に合格したときの話を少ししたいと思います。
高校は、一応地元の都道府県では有数の進学校(ただし公立)でした。
上から半分くらいの成績だと、それほど努力しなくても旧帝大の普通の学部に現役で入れます
という学校です。
そんな中、私の成績は、上から2/5くらい。
正直、この成績だと普通は国公立大学の医学部に現役では入れません。
そんなことはお構いなく、3年生の6月までは体育会系の部活に明け暮れ、そのあとは夏休み明けに行われていた学校祭の準備に没頭する、きわめて普通の女子高生でした。
でも、なぜか現役で受かってしまった。
当時は得点開示という制度がなかったので、具体的な勝因はわかりません。
いくつか後付けの理由を考えてみると、
- 定期試験は恥ずかしくない程度に勉強していたので、一応基礎ができていた?
- 高校3年生模試でE判定をいくつ取ろうと、「私が受験生の中で一番、医師になる適性がある」という気概(勘違い)で頑張り続けることができた。
- 受けた大学の傾斜配点が、私のセンター試験の成績に良くマッチした(日本史が98/100点だったのです)。
- 二次試験の問題が難しすぎ、特に私が苦手とする数学や物理で差がつかなかった。
というのが、良かったのかな、と思っています。
辛い目にもたくさん遭いました。
- 「お前の成績では受かるはずがない」と、面と向かって言い放った同級生
- 一向に上がらない模試の成績
- 面と向かっては言わないものの、遠回しに志望変更を進めてきた担任の先生
- 「身内にも医者はいないし、うち、お金ないけど…」「浪人されても困るんだけど…」と不安そうに呟く親
そのような重圧を跳ね除け、結果的に現役で某国公立大学の医学部医学科に合格した時は、嬉しいよりも先に呆気に取られ、言葉が出ませんでした…
ちなみに合格発表と他大学の後期試験が重なったため、発表は家族に見に行ってもらいました。
あとで「あ、間違って合格にしちゃった」なんて言われないように、親に我が儘を言って入学手続き開始の初日にお金を準備してもらい、サッサと入学手続きを済ませた記憶があります。
無事、大学に入学した後は、体育会系サークルとバイトにハマる普通の女子医大生として6年間を過ごしました。
ちなみに、大学入学時の成績はたぶん下から数えた方が早かったはずですが、
大学卒業時の成績は、上から1/4くらいでした。
医師という職業を目指すにあたって考えてほしいこと
医師になってから身に染みていることをいくつかあげておきます。
女性には辛い世界である
医師の世界においては、男女平等なんていうものは、幻想です。
これは、そちらをご覧いただければ幸いです。
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資格職だから就職には困らない?は幻想
「資格職だから、就職で困ることはないはず」といって医師を目指す高校生もいると聞きます。
確かに、職場を選ばなければ、どんな病院でも就職さえできればよい、ということであれば、一生仕事に困ることはないと思います。
このご時世でも、喉から手が出るほど医師がほしい、と思っている病院は、世の中にたくさんあります。
たいていは、田舎の老人病院か、よほど労働条件が悪いか、のどちらかですが。
(ちなみに、医師の世界には労働基準法なんてものはつい最近まで全く適用されてませんでした。
今でも、全ての病院に労働基準法をまともに適用したら、急性期病院の半数以上がつぶれると思います。)
かといって、医学部に入れるほどの高校生が、プライドを捨ててまで「どんな病院でも良いから、就職さえできれば良い」なんて考えているとはとても思えません。
有名どころの初期研修病院や大学病院、センター病院のようなところには応募者が殺到し、1次選考にすら通らないことも珍しくありません。
希望以外の病院で初期研修を行う羽目になった研修医もたくさんいます。
そんなとき、「就職できたからいいや。」と思える人間がどのくらいいるのでしょうか?
そして、これからは、新専門医制度が始まります。
専門医の有無など、色々な条件をもとにした医師の選別がはじまるともいわれています。
「医師であれば何でもいい」という時代は、そろそろ終わりを告げるかもしれません。
お茶やお花の免状と同じように、免状としての医師免許がほしい?
とんでもないことだ、と思いますが、こういう感覚で医学部医学科に入る女性もいるようです。
こんなことを考えている方がいたら、少なくとも、税金が少なくない額投入されている国公立大学の医学部医学科に入るのはやめていただきたいと切に願います。
(私立大学の場合は、ご自身や家族の資産で入学されるのでしょうから仕方ないですが…)
お茶やお花のお免状と医師免許、決定的に違うのは、医師免許は、発行枚数が決まった「社会の資産」でもあるという点です。
医師免許は、公的財源が投入される「医業」を行うための免許です。
医師免許を取ることができるのは、医学部医学科に入学(そして卒業)できた人間だけ。
つまり、定員があるのです(当たり前)。
どんなに医師になりたくても、高い志があっても、医学部医学科に入れなければ医師になることはできません。
決して、「嫁入り道具の一つ」として終わらせてよい免状ではないのです。
さらに、医師とは、職業であると同時に「生き方」であると思います。
医師になるべき人はどんな人か、と聞かれたら、「人を助けたいと心から願う人」と答えます。
逆に言うと、「人を助けるために傷つけることを許される免許」が医師免許です。
自分たちの技術を向上させるのも、勉強するのも、体調を整えるのも、こんな感じでブログや雑誌で知識を共有するのも、すべて「人を助けるため」です。
決して、自分たちが良い生活をするための免許ではありません。
「人を助ける」責任の重さによって、私たち医師は対価をいただいています。
医師免許の意味をはきちがえることなく、毎日研鑽を積み重ねていく覚悟のない人には、医師免許はふさわしくありません。
「医師にも生活がある」ということは身に染みてわかっていますし、私自身も家庭の事情で当直免除の制限勤務を行っている人間ですから、偉そうなことはいえません。
でも、「目の前の人を助ける」「常に、昨日の自分よりも一つ賢くなる」気持ちは常に持っているつもりです。
まとめ
医学部医学科を目指す高校生に必要なのは、一つだけだと思います。
目の前の人を助けるために人生を賭ける覚悟、あなたにはありますか?
☆医師を目指す女子高生に向けて、「女医の現実」について書きました。
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医学部に行きたいあなた、医学生のあなた、そしてその親が読むべき勉強の方法
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