「脱水症(だっすいしょう)」と聞くと、なんとなく
[st-kaiwa3]夏の暑い日のハナシでしょ?
冬は別に心配いらないよね~[/st-kaiwa3]
というイメージがあるかもしれません。
また、
[st-kaiwa2]運動や仕事で激しく身体を動かしてれば心配だけど、
家でまったりしてるだけだから、関係ないよね~[/st-kaiwa2]
と考えておられる方も結構多いと思います。
[st-kaiwa1]そんなことはないんです!
夏でも冬でも、外でも家の中でも脱水症は起こるんです。[/st-kaiwa1]
ということで今日は、「脱水症」のお話をしたいと思います。
■目次
脱水症とは?
「脱水症」とは、身体の中の水分(=体液)が足りない状態 のことをいいます。
「身体の中の水分=体液」というのは、ただの水ではありません。
体液の中には、純粋な水分のほか、
- ナトリウムやカリウムなどの電解質(ミネラル)
- タンパク質
など、身体を健康に保つために必要な、いろいろな成分が含まれています。
人間の身体には、どのくらいの水が必要なの?
成人男性では、人間の身体のおよそ60%が水分でできています。
ちなみに成人女性や高齢男性では約50%,高齢女性で約45%とされており、高齢になると体内の水分が減っているのがわかります。
人間のカラダから1日のうちに出ていく水分は、合計で1.7~2.5ℓ程度(汗と呼吸・皮膚から蒸発する水分により0.7~1ℓ、尿・便として1-1.5ℓ)とされています。
実は300ml程度の水は身体の中で作られている(=代謝水)のですが、食事や飲み物として、不足分の水分を補給する必要があります。
めやすとして、最低でも
- 食事から1日800mL程度
- 水分として1日500mL程度
くらいの摂取が必要となります。
脱水症の原因を知る
脱水は、
- 身体に入る水分が足りない(水分摂取量の減少);
水を飲む量が足りない(飲み込めない=嚥下(えんげ)障害、のどや口が渇いたことに気がつかない=口渇障害や意識障害など)
- 身体から出ていく水分が多い(水分喪失量の増加);
大量に汗をかいたり、熱が出たときなどに起こります。
下痢やおう吐、糖尿病性ケトアシドーシス、やけど(熱傷)などの病気や薬(おしっこが出やすくなる利尿剤など)の影響で起こることもあります。。
のどちらか、または両方が発生することで起こります。
脱水症をおこしやすい人
脱水症はどんな人でも起こり得るのですが、特に
- 高齢者(もともと体内の水分が少なめ)
- 幼児(のどの渇きを適切に訴えることが難しい)
などに起こりやすいです。
高齢者が脱水になりやすい理由
高齢者の場合は、老化により基礎代謝が落ちます。
そのため、若い人と比べると、代謝によって身体の中で作られる水分(代謝水)の量が少なくなっています。
さらに、年を取ると病気がなくても「水分がきちんと取れなくなる」ことが多いです。
これは、老化でのどの渇きを感じ取る口渇中枢の働きが鈍ることで、水を飲む量が減るからです。
さらに、おもらし(尿失禁;しっきん)や夜間トイレに起きるのが心配で水分を取らず我慢している方もいます。
うつ状態や意欲の低下などから水を飲もうとしても身体が動かず、脱水となってしまうこともあるのです。
高齢者の場合、もともと身体の中の水分量が少ないため、
たとえば「今日は部屋の中が暑かった」「ちょっと歩いて汗をかきすぎた」「お風呂のあとの水分補給を忘れた」といったささいなことでも、すぐに脱水になってしまうのです。
冬でも脱水症になる。
汗を大量にかいたりすることがきっかけになるので、どうしても、「脱水症は夏の病気」というイメージがぬぐえません。
ところが、最近では
- 建物の気密性が高くなり、冬でも家の中が温かくなったこと
- エアコンなどにより部屋が乾燥しやすいこと
- 温かさを保つ衣類が進歩したこと
などより、冬に脱水症をおこして運ばれるケースが増えているのです。
専門的な脱水マメ知識①
医学的にみると、水分の欠乏には2種類あります。
❶細胞外液の欠乏(volume depletion)による脱水症の場合
循環血漿量の低下から、起立性低血圧・頻脈、腎機能低下などの症状が出やすいです。
検査所見では、腎機能低下を反映し、尿素窒素(BUN)、クレアチニン(Cr)値の上昇を認めます。volume depletionの本質は、ナトリウムの喪失・低下です。
これにより血症浸透圧が低下し、細胞外から細胞内へ水が移動するため、循環不全を招きやすいのです。
❷自由水の欠乏(dehydration、hypertonicity)による脱水症(高張性脱水)の場合
意識障害、口渇、乏尿が出やすく、検査所見では高ナトリウム血症や血症浸透圧高値を認めます。
細胞内から細胞外へ水が移動することにより、循環不全の兆候は比較的出にくいです。
実際には、1と2が同時に起こることも多いです。
どうしてこうなるのかは、下の記事をどうぞ↓
参考>輸液を考える上で欠かせない、自由水と細胞外液のハナシ(後日追加予定)
脱水症の症状を知る
脱水症の症状には、自覚症状(自分でわかる・感じる症状)と他覚所見(他人が見てわかる・気がつくもの)があります。
脱水症の主な自覚症状
脱水症の自覚症状としては、
- 口の渇き
- 体のだるさ
- 立ちくらみ・めまい
- 微熱
- 食欲が落ちる
- 力が入らない(脱力)
- 脈が速い(頻脈;ひんみゃく)
- 意識障害
- 血圧低下
などがあります。
脱水症の主な他覚所見
脱水症の他覚所見としては
- 皮膚や唇、舌が渇いている
- 手の甲をつまんだときにできるしわが、なかなか元に戻らない(皮膚の弾力性が落ちる)
- おしっこや涙、よだれが少ない・出ない
- 手が冷たい
などが見られます。
明らかな脱水症なのに、症状がないこともある
しかし実は、脱水症だけど特に症状がない、ということもよくあります。
特に高齢者の場合、自覚症状を訴えない方がとても多いです。
脱水症って、病院ではどうやって診断するの?
自覚症状や他覚所見から脱水を疑った場合、血液検査を行います。
採血データで、
- ヘマトクリット(血液の濃さ)が高い
- 尿素窒素/クレアチニン比が25以上
- 尿酸値7mg/dl以上
などがあれば、脱水と診断します。
また、超音波検査も重要な診断の助けになります。
- 下大静脈の呼吸性変動が50%以上ある
- 推定中心静脈圧が低値
だと、脱水を強く疑います。
脱水と診断した場合、電解質(ナトリウムやカリウムなど)を確認し、脱水の原因や重症度を判断します。
脱水症の治療について
口から水を飲める方には、経口補水液などを飲んでいただくのも立派な治療の一つです。
口から水分を飲み込むことができない場合には、点滴で必要な水分や電解質を補給します。
血圧低下、意識障害など明らかな循環不全(ショック)の所見がある場合には、入院が必要です。
誰でもできる!脱水症の予防法と応急処置
脱水症を予防するために
お風呂に入ったとき、寝ている間など、人間は自分で思っているよりもたくさんの汗をかいています。
朝起きたとき、入浴の前後、寝る前など、時間を決めて定期的に水分を取ることを心がけましょう。
下痢や嘔吐、発熱や運動などで大量に汗をかいた場合などでは、水分だけでなく多くの電解質も失われています。
したがって、失われた水分と電解質を速やかに補給するために、ただの水やお茶ではなく、経口補水液(もしくは市販のイオン飲料など)をうまく利用しましょう。
高齢者の場合は、水分の摂り方にもコツがある
高齢者の場合、飲み込む機能が落ちていたり、意欲が落ちていたりして、必要な水分量を飲み物だけで補うのは難しいことが多いです。
そんなときは、お粥や汁物などをうまく利用し、食事に含まれる水分量を増やすのも一つの方法です。
心臓や腎臓など持病がある方はもちろんのこと、老化によって身体の機能が落ちると、大量の水分を一度に吸収することができなくなります。
「皮膚や口の中が乾燥しているから」「ぐったりしているから」からといって、一度にたくさんの水分を飲ませることは避けましょう。
脱水かな?と思ったときの応急処置
特に高齢者や幼児の場合、
- 何となく元気がない
- ぐったりしていて反応が鈍い
というよう場合にも、脱水の可能性があります。
「脱水かな?」と思ったら、まずは水を飲めるかどうか見てみましょう。
自分で水を飲める場合、経口補水液を少し飲ませてみてください。
市販のものでも構いません。
ちなみに、通常の状態で飲むとあまり美味しく感じられないものですが、脱水の状態で飲むととてもおいしく感じられます。
大塚製薬工場 経口補水液 オーエスワン 500mL丸PETx24本(ケース)
お年寄りには、飲みやすいゼリータイプもあります。
経口補水液の作り方
上のような市販の経口補水液を常備しておくと何かと便利ですが、何もない場合、家にあるもので経口補水液が作れます。
- 水1リットル
- 塩を3グラム
- 砂糖を20~40グラム
これを、透明になるまでよくかき混ぜると出来上がりです。
お好みに応じてレモンやライムなどを少々絞って入れると、スッキリ飲めます。
水は生ものなので、作り置きはしないようお願いします。
脱水で病院に行くめやす
自分で水を飲めない場合、脱水以外の病気の可能性もあるため、一度病院へ連れていきましょう。
他に大きな病気がない場合、軽症の脱水であれば、外来で補液をしてあげると元気になることが多いです。
まとめ
脱水症は、夏だけでなく冬も起こる病気です。
高齢者や幼児はもちろんのこと、どんな人でも脱水症をおこす可能性があります。
脱水症かな、と思ったら…
水を飲めるようなら、市販の経口補水液を飲みましょう。
飲めないようなら、すぐ病院へ行きましょう、
参考文献;
太田 樹ら:水・ナトリウム代謝異常 〔日内会誌 104:906~916,2015〕
Gautam Bhave, M.D., Ph.D. and Eric G. Neilson, M.D.:Volume depletion versus dehydration: how understanding the difference can guide therapy. Am J Kidney Dis. 2011 Aug;58(2):302-9. doi: 10.1053/j.ajkd.2011.02.395
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